うし
うし
象牙刻、べっ甲 H24×W60×D31
僕がまだ大学生のころ、訳もなく社会で大きなムーブメントを起こしたいと考えていた。流行の仕掛け人、時代の新潮流、アヴァンギャルド…そんな言葉に憧れていた。時代を動かす、なにものかになりたいと自分に言い聞かせてきた。
それはなにものだったのか?
その答えを考えもしなかったが、禅画の十牛図を見て改めて思い出した。
牧童が牛を探す姿によく似ていたのかもしれないが、僕は根付という牛を見つけ、根付という牛を飼い慣らそうとしている。
勝手気ままな牛はいつも居眠りばかりして一向に言うことを聞いてくれない。そこに一頭の美しい蝶が舞いおりた。
寝ている牛がその気配に気づき、片目を開けて蝶の様子をうかがっている。牛は思った、自分が動けば蝶がいなくなってしまうと。
僕が牛を飼い慣らせないように、牛も蝶を意のままに操ることはできない。
今の僕は社会の大きなムーブメントを期待するのではなく、自分のうちにある小さなムーブメントを起こすことの方が大切だと思っている。はっきり分かっているのは僕自身がなにものかであり、心に牛を飼っているのである。
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| 根付作品 | 12:16 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑