源氏物語より「藤壺」 こんな日は月でも観に行こう
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源氏物語より「藤壺」

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源氏物語より「藤壺」H3.5×W4.7cm

千年の昔から読み継がれてきた源氏物語。王朝華やかなりし雅な世界を伝える長編恋愛小説であり、登場人物は総勢430名にものぼります。魅力的な登場人物が多いなか、この源氏物語の最も重要なテーマを彫りたいと考え選んだのは、光源氏にとって最初にして最大のヒロインである「藤壺」です。光源氏の継母として桐壺帝の寵愛を受ける藤壺に対して光が抱く初恋の念、それが熱情に変わり抑えきれなくなり、燃え上がる許されない恋。それに比べ、皇子(冷泉帝)まで身ごもった藤壺の葛藤は深いものになっていく。そして藤壺が愛する光と皇子を守るために出した結論は、自らの出家でした。その時の決意は並大抵でなかったと思います。そこには深い愛を感じさせるとともに、その姿勢には凛とした美しさが漂っています。

私は藤壺が自らの道を客観的に、自制的にとらえることのできる聡明さに惹かれました。女性自らが道を選ぶことなどできなかった時代に、自らの道を選んだ藤壺こそ真正面から彫りたいという衝動に駆られました。

作品では藤壺が自らの髪をたぐり寄せ、懐刀で髪を断ち切るという場面を彫っています。実際には伯父の横川の僧都が髪を下ろしたと物語にはありますが、藤壺が出家を決意した心のなかでは自らの手ですでに髪を下ろしたと解釈しました。儀式的なことを強調するために左手で髪を懐紙に包ませました。女の命とも呼ばれる髪の毛の先は、揺れ動く情念を表わすかのように入り乱れていきます。

藤壺がまとう十二単の唐衣には藤の文様を、また表着には桐の紋をあしらい、桐壺帝を慕っていることを表しています。しかしその単衣の裏には光源氏への思いが青海波の文様とともに埋め尽くされています。紅葉賀で頭中将と舞った青海波にちなんで、おいかけをつけた巻纓(けんえい)の冠と、紅葉の葉、そして光から藤壺に送った歌「物思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の袖うち振りし心しりきや」を添えました。光源氏が輝いて見えた思いを引きずっていることを表しています。表側の桐壺帝への思いと裏側の光への思いのなかで揺れ動く藤壺の葛藤を表してみました。

光源氏との許されることのない恋だからこそ、藤壺の葛藤は悲しく、そして美しくもあるのだと思います。時を超え、普遍的な心情や女性美を描ききった紫式部に改めて感服する次第です。


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